日本!(近江の祭・火祭)
No.36 高月町の野神祭り

■ 持寺 (滋賀県長浜市高月町持寺) 平成23年8月 撮影

持寺と尾山の両集落は、同じ祭場の野神様を祀る祭礼を合同で行う。祭場は尾山山の東の山麓で、井明神橋の西側で、現在の「上水井」という用水分岐店のすぐ傍である。今回は今年の冬にオコナイを撮影させて頂いた、持寺の渡り当人(当番)さんにお世話になりながら随行した。

午前中に当番さん宅で御幣などの準備が終わると、集落内の白山神社で隣り集落の尾山へ出発の合図の松明を燃やした狼煙を上げる。この時、太鼓や鉦で囃しながら行うから、狼煙は野神様が降臨される目印という意味合いがあるのであろう。集落を囃しながら御幣を先頭に、尾山集落方面に歩いていく。途中、尾山集落の口では、集落の人達がしゃがんで、持寺の人々が通過するのを松明を燃やしつつやりすごす。

持寺の集落の行列が野神さんの祭場に着くと、当人さんは御幣を持ったまま御神木の周りを3回半周って、御幣を注連縄に結びつける。後から付いた尾山の当人さんも同様に行い、そして祭場下で三々九度の杯ノ儀を行う。ちなみに持寺の御神木は女神であり、尾山は男神を表し、御幣の形態にも区別がある。

ところで興味深いことがある。持寺では野神祭りの時に、昔は白装束に菅笠で行列していたという。この装束、「井落とし」の時の衣装である。「井落し」ついては触れなくてはならない。湖北は目の前に巨大な水瓶、琵琶湖という満々と水を湛えた水瓶が有るのに、ポンプで引き上げる技術の無い時代は、琵琶湖の水は絵に描いた餅であった。田圃を潤す水は、高時川に頼っていた。この高時川に数々の井堰が設けられており、渇水ともなると 、水をよこせ とこの堰を切り落としに行く井落としが行われていた。平和裏に行われる場合ばかりでなく、時には流血騒動にまで発展することも多々あったようである。特に大井上六組が上流の餅の井、松田井を切り落とす井落しを「餅の井落し」「井落し」と称していた。大井上六組とは、持寺・井口・保延寺・雨森・柏原・渡岸寺である。つまり、井落しを行っていた組に今回の野神祭りの持寺は含まれている。その井落しに出かける装束で野神祭りに行列するとは、物々しいことである。しかし合同で行う尾山は井落しを行う組ではない。今回の野神祭りにおいて、尾山の集落の人々は、持寺の人々をしゃがんで通した。撮影の時、それがどのようなことか理解できなかったが、井落しについて調べると、井落しに行く持寺の民を尾山の人々が黙って集落を通過させた慣例によっているのではないかと、想像する。尾山は上水井という水路から水を取っており、比較的に水不足が少なかったのかもしれない。実は持寺は、大井上六組から灌漑用水を取っていただけでなく、尾山からの上水井からも集落の半分を灌漑していたのである。この貰い水を得水と言っていた。このように尾山から水を貰う関係からか、野神様の祭場では持寺は尾山の下座に座る。持寺が水不足で、もっと水をよこせと言われると困るので、尾山は井落しに行く持寺の民を黙認したということだろうか。

このように野神祭りは、田圃の灌漑用水に密接に関連している。野の神様なのか水の神様なのか、、、両方であろう。

この辺りでは夏の野神祭りは行われるが、冬の山ノ神祭りは行われない。ましてや野と山の循環するという発想は無い。しかしながら私は、実は冬のオコナイこそが山ノ神に相当するのではないかと思っている。祖霊を迎えて祀る御鏡餅を中心としたオコナイは、集落内の結束と団結の場であった。秋の収穫によって得られた米で作られた大鏡餅には、祖霊と集落民の魂が宿っている。来るべき年度の豊穣を祈念する組織の再構築は、水不足になっても争うだけの団結力と決意の再認識の場であったのだろう。つまりオコナイあっての野神様であり、野神様あってのオコナイである。ただし、この関連性は、この地域の高時川用水を灌漑に使っていた地域に限定した考えのように思える。

野神祭りを理解することで、オコナイへの理解が深まったように思えた。

《参考HP》 オコナイ http://www.photoland-aris.com/myanmar/okonai/

上写真2枚;持寺の行列。尾山の人々がしゃがんで待つ前を、通過していく。

上写真左;渡り当人(当番)さん宅の御幣、上写真右;その御幣を奉げ、御神木の周りを周る。

持寺、尾山の皆様 ありがとうございました。


■ 東物部  (滋賀県長浜市高月町東物部)  平成23年8月 撮影

東物部は大井下六組(東物部・西物部・横山・唐川・磯野・東柳野)に属していた。上記にUPした持寺のように、合同で野神祭りを行うということが無かったのは、得水などが無かったからかもしれない。ここの野神祭りで特色があるのは、祭礼前夜に8組ある自治会から代表者が集まり、白酒(度数無し)をつくるため、酒摺りを行うことであろう。これを一夜、野神様の御神号の掛軸の前にお供えし、直会で試飲も行う。よしとなったら、翌朝の5時に野神様にお参りに行く。御参りから戻ると、野神座式で引継ぎの盃ノ儀が行われる。
酒摺りの間、当番さんは暑い中でも正装正座で見守る。厳粛な儀礼様式が受け継がれている姿に、深い感銘を受けた。
東物部の皆様、ありがとうございました。

          上写真4枚; 酒摺りと直会。

上写真2枚;朝5時、野神様への社参と祭礼。


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