■ 小谷
撮影場所&日;滋賀県蒲生郡日野町小谷、平成22(2010)年1月2日
宿(公民館)を出発した約30人の祭列は、注連縄、ツトや御神体を持ち、「山ノ神さまが起きやったでー」の掛声と共に、約500mも離れた山ノ中の祭場へ向かった。手際良く祭場が竹柵を設けられ結界されて、祭典の準備がなされた。やがて注連縄を唱え言葉の後に切り、そしてオッタイ(男性)とメッタイ(女性)を木の股木でこしらえた御神体を、御神木前で交合させる模擬性交儀式などが行われた。その後には、御神木にツトを投げ上げて引っ掛ける儀式が行われ、直会に移った。直会では鰯にハマグリを焚き火で焼いて食していた。
小谷の山ノ神まつり の興味深い点、2つ。まづ模擬性交儀礼である。山ノ神様は女神という説もあるのだが、一説には男性神だとも云われる。しかしながらこの近隣では男体と女体の性交を行わせるということは、両性具有の側面があるのだろうか、、、あるいは模擬性交儀礼を見せることで、女神を刺激して産する霊力を亢進させようとしているのか、、、その点は不明である。興味深い点の2点目は、ツトを投げ上げて木に引っ掛ける儀式である。ツトとは藁で編んである束であるが、中には餅・米やタツクリを入れる場合が多いという。木に引っ掛けるときに、「全部引っ掛けるように」という声が聞こえたが、これはツトが全部木に引っかかることが豊穣の卜(うらない)の完全な大吉を意味しているのではなかと思った。
※小谷の皆様に感謝申し上げます。
上写真;出発前の儀式。オッタイ&メッタイ(男女の御神体)を拝む。
上写真2枚;オッタイとメッタイの模擬性交儀礼
上写真2枚;藁ツトを投げ上げて御神木の枝に引っ掛ける。
■ 増田
撮影場所&日;滋賀県蒲生郡日野町増田、平成22(2010)年1月3日
宿(当番)に午前5時半に着くと、もう既に人々が集まってきていた。午前6時、宿を出発し、山へ向かう。道行きの掛声は昨日同様、「起きやった起きやった、山ノ神さまが起きやったでぇ〜」である。まだ真っ暗な空に、掛声が吸い込まれていく。約40人ほどの人々が、山ノ麓からおのおのが藁束を持って山へ登っていく。山ノ神様の祭場で、直会に焚き火をして暖を取りつつ鰯を焼いて食べるための藁だ。隣集落の鋳物師町の祭りを請け負っている関係から、二箇所の祭場で祭典は行う。御神木の前に股木で作った男女の交合した御神体を置く。その前に注連縄を掛け、唱え言葉の後に注連縄を鎌で切断するのである。これは山ノ口を開く、ということで、これによって集落民は山に入っても良いということになる。しかし、注連縄を切るという行為はそれだけでなく、山に戻っていた神を眠りから覚まさせ解き放つということであろう。山ノ神のいう神格を畏れ敬いながらも、人間が神格に野に下りるきっかけを強制的に作り上げるようで、面白いことである。山ノ神さまは野山の恵みを生むことから女神と考えられ、女性を嫉妬するらしい。だからか昨日も今日もそうだが、山ノ神まつり は女人禁制で行われる。注連縄が切断されて山ノ口が開かれた後には、焚き火を車座で囲んで、鰯を焼いて食べるのが直会である。この頃になると、夜も明け始めて明るくなってくる。節分で、鬼の絵を描いた短冊に鰯の頭を刺して魔除けとする風習がある。鰯の強烈な匂いが魔物が避けるということらしいが、山ノ神まつり で鰯を直会に食べるようになったのは、比較的近年らしい。昔はスルメを焼いて食べていたという。
※増田の皆様にはお世話になりまして、感謝申し上げます。
上写真2枚;宿を出発。やがて山中へ分け入る。
上写真2枚;唱え言葉の後に、注連縄を切る。
「ああ目出度いな。目出度いな。目出度い内で祝おなら。鶴は千年亀は万年。こうぼうさつは九千年。三浦の保助106つ。五穀豊穣実り良く。でかけにょうぼうにこが出来んよう。ああえんやらやー。えんやらやー。」が唱え言葉。
上写真2枚;直会。焚き火で鰯を焼いて食べる。
上写真;御神木前で合体した御神体。ただし模擬性交儀礼は無い。