■ 海山道稲荷神社 狐の嫁入り神事
撮影場所&日;三重県四日市市、平成19(2007)年2月3日
撮影機材;Nikon D80+VR18-200mm
現地情報;駐車場あり、屋台あり、狐の嫁入り神事は、14時半より
神使の福徳家の娘狐福子が、神使の総本家助四郎家の小狐助太郎のもとにお嫁入りするという設定の神事。
神職を先頭に巫女、楽人、鬼そして狐面の親族に続いて、狐の新郎新婦が駅前から鳥居を潜って本殿前境内の特設舞台へ向う。そして舞台上で結婚式を挙げてから、初めての二人の仕事「豆まき」を行なう。節分の行事である。新郎新婦の狐役は、氏子の年男年女から選ばれて、今年は42歳の男性と19歳の女性が勤めたが、むろん実際の夫婦ではない。
この「狐の嫁入り神事」を斎行する海山道稲荷神社の御祭神は、倉稲魂神・大乙貴命・太田神・保食神に大宮能売神であり、お稲荷さんにつきものの狐は御祭神ではない、当たり前だが。。
狐はお稲荷さんの神の使いとして崇められた動物神であり、眷属神といわれる。なぜ狐かというと、狐は春になって山から里に下りてきて、それが田の神とみなされたとか、稲荷神を御食津神(みけつかみ)といって、これに三狐の字を当てたなどの説がある。ただ後者は先に結論ありき、の感じがする。小松氏は、「東寺の守護神は稲荷神であり、伏見稲荷が東寺の影響下に入っていく過程で荼吉尼天(ダキニテン)を祀るようになり、そこから稲荷神=荼吉尼天、さらにはその使者神の狐こそ稲荷神、というように変質した」と述べておられる。中国での荼吉尼天信仰では野干(ジャッカル)に乗っているが、日本ではジャッカルは居ないので類似の狐が充てられたとも。荼吉尼天の呪法は密教において強力な呪力を持つ禁断の秘法で、政変から愛欲まで強力な調伏力を持っていたようだ。稲荷は元々は穀霊であるが、密教と習合する中から狐が生まれ、加持祈祷の秘法となり、やがては愛法の神そして商売の神へと変貌していく。時代と共に変化する御利益も、日本の神様のダイナミックレンジの広さといえよう。
《参考文献》
【日本の呪い】小松和彦;光文社
【すぐわかる日本の神々】鎌田東二監修;東京美術
【加持祈祷の本】(ブックスエソテリカ35);学研
上写真、豆まき・・・家電製品が当たる福引も入っているから、参拝者も目の色が変わる
■ 飛鳥坐神社 おんだ祭
撮影場所&日;奈良県明日香村、平成19(2007)年2月4日
撮影機材;Nikon D80+80−200mmF2.8D、D70s+VR18-200mm
現地情報;私設駐車場あり、屋台あり、神事開始14時
二月の第一日曜日に、おんだ祭が斎行されるが、字の如く『御田祭』という御田植え神事である。14時から神饌供饌に祝詞奏上などがあり、御田植え神事の演目が始まるのは14時半頃である。具象的な御田植えの動作を神楽殿で行なう第一部、間に浦安之舞が挟まって、第二部において有名なシーンの和合が行なわれる。間に皇紀2600年記念の巫女舞の「浦安の舞」が挟まれるが、むろん第一部も二部の一連の続きの予祝行事である。予祝とは、収穫までの無事な生長を願いかつ予測してお祝いすることである。神前において予祝行事を行なうことは、御祭神にかくありたいという祈願をすることである。では夫婦の和合シーンは、いかなることかというと、一種の感染呪術・類感呪術ともいえる。「感染呪術」とは、一度相互に関係を持ったものは常にその関係を有し、一方に何らかの変化が生じると、他方も同様の影響を被るという関係を呪術に用いるもとである。そして「類感呪術」とは、類似は類似を呼ぶという関係を呪術に用いることである。夫婦の和合を演じることは、子を孕むという神秘性に穀霊が反応して結実するといことを期待している訳で、究極の目的は子孫繁栄だけでなく農作物の豊穣であろう。感染呪術・類感呪術を分けて考えるのは難しそうだが、神楽殿で和合シーンや田植えシーンを演じることは類感呪術であり、和合シーンの後の処理に局部を拭いた紙を拭くの紙(福の神)として授与するのは、授かった人への感染呪術であろうか。一般的な御田植え祭において、孕む状態になる感染呪術のアニミズムが早乙女を登場させるとも云われる。何時のころからの神事であるか不明のようであるが、少なくとも和合とその結果の孕むという因果関係が理解されるようになってからの祭りであろう。男根のような採り物を扱う演目があるが、類似の演目は三河地方の伝統芸能で拝見したことがある。全国的に同じ様な伝統芸能が分布してても不思議ではない。なお、私がこれまでに見てきた里神楽では、高千穂神楽において和合シーンがあった。
午後2時の神事が始まる前の午前10時頃から、境内や神社周辺に翁や天狗面が青竹棒を持って出没、参拝者を見かけると追っ掛けて尻を叩いてまわる。厄除けと云われるが、豊穣を妨げる穢れを叩いて祓っていくのだろう。私は撮影の度に狙われて、合計10発くらい食らってしまった。今年は清い一年になりそうだ(汗)。。。
《参考文献》
【呪術の本】(ブックスエソテリカ30);学研
【宮崎の神楽】山口保明;みやざき文庫
上左右写真;浦安之舞
上左写真;種蒔、 上右写真;代掻き(サボる牛)
上左写真;汁かけ 、上右写真;鼻つきめし
上写真三枚;種つけ
翁面は仲人。和合シーンを参拝者に隠して笑わせたり、しっかり和合できるように押さえつけたりする。
拭くの紙(福の神)を、、、。 この後、参拝者が奪い合うように求める。