日本!(念仏・風流)
No.8 やすらい祭(やすらい花)

撮影場所&日;京都市北区紫野、平成19(2007)年4月8日
撮影機材;Nikon D70s+SIGMA10-20mm、D80+VR18-200mm

『平家物語』第四巻を素材とする、能【鵺(ぬえ)】という曲がある。
その物語・・・諸国行脚の旅僧(ワキ)が芦屋の里で、丸木舟に乗って漕ぎ寄せた舟人(前シテ)に逢う。彼は近衛天皇の御世に源三位頼政の矢にかかって殺された鵺だと語る。僧が回向をすると、鵺が亡霊(後シテ)となって現れて近衛天皇と頼政のやりとりや、鵺が退治されてウツボ舟に入れられて淀川に流された経緯を語り、舞う。この能の内容と「やすらい祭(花)」を関連付けると面白い。鵺は、頭は猿、胴は狸、尾は蛇、手足は虎の姿というから、物の怪である。近衛天皇を悩ませていた鵺は、天皇の周辺で非業の死を遂げた政敵などが怨霊となって顕れた姿であろう。頼政は武士であるがゆえ、弓矢で鵺を退治しているが、これは怨霊が調伏されたことを現わしている。その退治された鵺は、ウツボ舟に入れられて淀川に流されたという。これは、災いをなす邪霊は平安京の結界の外側に棄てるという行為である。時の平安京は、疫病や災厄がしばしば起こり、それは恨みを残して死んだ人物の祟りであると思われていた。例えば、早良親王、伊予親王、藤原吉子ら六柱など。そして菅原道真や平将門に崇徳天皇などなど。飢饉や疫病が蔓延したりして生活が荒む度に、天皇・貴族だけでなく庶民も怨霊の祟りを恐れた。庶民レベルでは天皇・貴族が怯える大怨霊だけでなく、身近な邪霊や悪鬼の存在に怯えて、それらをいかに調伏するかが大問題であったろう。神泉苑での「御霊会」、上下御霊神社や八坂神社の祇園会(祇園祭)も平安京内部の様々な怨霊鎮めのために始まった。「やすらい祭(花)」は往古、三輪大神など疫神を鎮めるために営まれた神祇官の「鎮花祭」と「御霊会」が結びついて庶民の間から生れた祭だという。
春の花の飛び交う頃に疫神が分散して病を与え人を悩ますと信じられ、これを鎮めるために奈良時代から鎮花の儀式を行なっていた。「やすらい祭(花)」では、春になって飛散する邪霊や悪霊を囃子や歌舞によって追い立て、花と欺く風流傘に吸着させて紫野ノ社の疫社に送り込んで、神威で降伏させて世を浄化させようとする。だから花傘は疫神を憑かせる依代(よりしろ)ということになろう。
【鵺】で退治された物の怪は淀川に流されたと描かれているが、一条天皇の正暦五(994)年の疫病のときには疫神を憑かせた神輿を難波江に流した記録が有るようである。が、流してばかりでは大変になったのだろうか、今宮神社の疫神社や玄武神社で封じ込めるように変わっていく。平安京の結界の外に棄てるのではなく、結界内部で神仏の力で邪霊を攘うようになったのだ。産業廃棄物を河川にタレ流していたのを、産廃施設で処理するようになったようなものか。
やすらい祭(花)は、各地で行なわれている念仏・風流(かんこ・太鼓)踊りの原型と云われており、今回それを拝見・撮影できたことは誠に意義深かった。
左の写真は、お茶席の和服美人さんを写させて頂いた(ありがとう!)。

       《参考文献》
       【今宮神社由緒略記】今宮神社社務所刊
       【踊り念仏】五来重、平凡社選書117
       【平家物語】河出書房新社
       宝生流 謡本【鵺】


■玄武神社 やすらい花

玄武神社では広い氏子域を四班に分けて、「練り衆」が朝8時半〜昼12時半、午後1時半〜18時半の間に行列を組んで町内各所で踊りながら巡回していく。私は午前7時半に神社に到着、8時半から12時半まで柏野方面へ行く「練り衆」を追っ掛け撮影した。午後は1時半から2時まで違う「練り衆」を撮影してから、今宮神社へ移動した。午後3時から今宮神社境内でも踊りが奉納されるからである。

「練り衆」は町の所々、家の玄関先などで「やすらい踊」を踊る。京の街中は網目状というより迷路のように細い路地が入り組んでおり、そこを行列は踊りながら進む。一日で10Km以上も歩くという。

「練り衆」の行列は、大小鬼、花傘に囃子方らによって「やすらい花や」と唱えながら氏子域を行く。花傘は疫神を憑かせる依坐ながらも、この中に入ると厄を逃れることができるというので、囃子が聞こえて来ると住民が家から出てくる。手を合わせるようにして傘に入る人も多く、現代においても民間信仰が生きている様子が窺い知れた。

午後から追っ掛けた練り衆は、雲林院に寄った(上左写真)。そこは能【雲林院】で、在原業平の亡霊が現れた場所である。
雲林院の山門のところで小鬼(鞨鼓・神子・・・10歳くらいの少年)が踊ってから、大鬼(太鼓2人、鉦2人)が踊る。

午後1時半、玄武神社境内で四班全ての大鬼が円陣を組んで一踊してから、各氏子域へ出かけていく。


■今宮神社 やすらい祭

午後から今宮神社氏子域の上野町・川上町の練り衆が町内を巡回後、午後3時に今宮神社へ踊り込む。あぶり餅茶屋前、境内神楽殿左右と拝殿前の計四箇所で踊が奉納される。下二枚の写真は、川上町の大鬼。大鬼に神職さんらが拝をされており、かつて疫社に疫神を封じ込めていた儀式を窺い知ることができる。今宮神社境内では、午後3時半には終了する。
昼の明るい時間帯であるが、怨霊封じの呪術性を強調した撮影をした。


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