撮影場所&日;愛知県一宮市、平成19(2007)年4月29日
撮影機材;Nikon D80+VR18-200mm
真清田神社神楽【桃豊舞】に関連して・・・
『古事記』で伊邪那岐命が黄泉の国からの追ってである黄泉醜女や黄泉軍を振り切るのに、「桃子三箇を取りて、待ち撃てば、悉に逃げ返りき(※1)」と、桃の実を投げて追い払っている。桃には邪気を払う霊力が有ると、古来より信じられている。これは元々は大陸から入ってきた考えのようである。
桃に関連した能楽に、【西王母】という中国の伝説を素材とした脇能がある。その能の前場では、桃の枝を肩にした仙女(前シテ)が現れ、三千年に一度花が咲き実を結ぶ桃の花を武帝に奉げようとする。仙女は、桃の国から来訪した西王母の分身である。後場では西王母が現れ、祝意の中之舞を舞って天界に去っていく。西王母は武帝に不老不死の桃を献じて、永遠の命を与えようとするのだが、この能は桃の持つ霊力を著明に表現した曲であろう。それほどの霊力が有るのだから、一切の穢れや邪霊疫神も鎮める力が桃にはあるので、伊邪那岐命は黄泉の国の怨霊に桃を投げて逃げおおせたのだ。
ここからは私のこじつけになるが、桃と西王母と真清田神社さんの関連を思いついた。西王母は図像的に頭の髪飾りに「勝」を付けているが、これは糸巻きで、であるから西王母は織物に関連する仙女であるというのだ(※2)。(西王母は、アマテラスという説もある)
真清田神社には摂社として服織神社が安座されている。御祭神は萬幡豊秋津師比賣命で、機織りの守護神である。
桃=西王母=機織女=真清田神社=桃豊舞、と私が強引に関連付けたが、偶然にせよ不思議なものだ。
真清田神社さんの周辺ではかつては桃の木が茂っていたことでも、桃には縁が深い。そして現在4月3日には『桃花祭』が斎行されている。桃花祭は上巳の節句に桃の枝で身の穢れを祓い、近くの木曽川にその枝を流して除厄招福を祈ったのが始まりとされている。代用物で人の穢れを祓い流すのは、陰陽道的には「撫物(なでもの)・人形(ひとがた)」であり、「償物(あがもの)」とも云われ、生身の人間の罪穢れを移して流し、災厄を逃れる方法である。清浄さを重視する神道において、穢れの祓いは重要である。
神楽【桃豊舞】では、巫女さんが桃の枝を採り物に舞う。邪気を祓い清めていく、気品に満ちた美しい舞である。
今年の『舞楽神事』では、神楽【桃豊舞】、管弦の奉奏に続いて舞楽【振鉾】【胡蝶】そして【抜頭】が奉奏された。
今からもう来年の4月29日が楽しみである。(真清田神社の皆様にはお世話になってます。御礼申し上げます。)
昨年の真清田神社『舞楽神事』は、こちらで御高覧下さい
《参考文献》
(※1)『古事記』岩波文庫、P.27
(※2)『伊勢神宮 東アジアのアマテラス』千田稔、中公新書、P.88
『能 現行謡曲解題(全)』松田存、錦正社
■神楽【桃豊舞】
■舞楽【胡蝶】
右写真■舞楽【振鉾】
下写真■舞楽【抜頭】