日本!(花祭)
No.8 祈りと湯と

愛知県北設楽郡東栄町
撮影日=東薗目;平成17(2005)年11月20日、月;同23日、足込;同26日

上写真左右;足込花宿周囲の紅葉、上写真中;瀧祓の瀧祭幣

花祭という湯立神楽の特色は、竈が舞庭(神庭)の中央に位置していることでしょう。舞の奉納は、その竈を核として前とクロ(横)で展開します。その竈について、月で豊根村から来たという初老の男性に訊かれました。
「ここの祭神は、ナンだか知ってる?」、私「槻神社も勧請してありますが、花祭は熊野のみる目きる目の・・」、「違うよぉ。天照大御神だよ。」
「、、、。」「榊鬼が一番偉いとかいうけど、そうじゃない。榊鬼は伊勢皇大神宮のとか言うだろ。でね、天照大御神は巫女で出るの。巫女が一番偉いんだ。」榊鬼の登場後に、シャナリシャナリと出る巫女こそ、中心的祭神というのです。「ここに竈が有るだろ。なんだか分かるかい?」「、、、。」改まって訊かれると、即答は難しいです。初老の男性が言うには、「この竈は天照大御神で、しかも天照大御神の性器なの。湯立で、手を入れるだろ。」「!、、、(汗)。」この初老の男性の云うような“竈=天照大御神の性器”説が、民俗学の世界にあるか、私は不勉強ですから知りません。ですが、実に明瞭に心に残る説で、一理ありそうです。竈に、日本の、そして皇祖皇宗の至高神としての天照大御神の周りに八百万の神々が、ここが高天原と勧請されてきます。実際には、伊勢外宮の祭祀儀式であった湯立が、御師によってこの奥三河にも伝播してきたという歴史背景や、あるいは江戸時代中期の復古神道や国学興隆時期、あるいは中設楽や河内が神道花に変化した明治維新後の時期に、この初老の男性の仰るような説は生れたのかもしれないですね。しかしながら、花祭の中心的神格は熊野九十九社の“みるめきるめ”とはいいながらも、非常に複雑に思えます。複雑に思えるのは、今の花祭が、かつてあった大神楽の名残を残している部分とそうでない部分が入り組んでいるせいもあるかもしれません。それと、花祭には修験者・山伏に密教僧や民間宗教などによって、無数の神々・諸霊だけでなく儀式まで持ち込まれているようなので、余計と複雑なんでしょう。
神嘗祭のような豊穣感謝や、祈年祭のような豊穣祈願、または月次祭のような神威更新のようなはっきりとした目的を持った神楽とは異なり、もっと呪的な世界を感じさせるのは、擬死再生など浄土神楽的な世界をも包括しているからでしょう。花祭の発生から発展が、単純な歴史の積み重ねではない神秘性と複雑性があります。むろん五穀豊穣予祝の里神楽にも、この月の初老の男性が言うような男女交合の世界は頻繁に有りますけど。
今回は、舞の写真よりもその前後の神事の写真を中心にUPしました。神事の解説は、「花祭(古戸・下粟代)」に記載してありますので、合わせて御高覧下さい。

上左【辻固め】、上右【高根祭り】共に足込で撮影。
辻固めと高根祭りを合わせて、“かどしめ”といいます。辻固めは、地上の諸悪霊・邪霊の侵入を防ぐ儀式。高根祭りは、天空からの諸霊を祀る儀式です。

【天の祭り】足込
花宿の二階に、七十五膳を並べて舞庭の二階に神々を勧請する儀式。ここ、足込集落のみが夜通しの灯明の“天の番”を残している。

上左【竈祓】、上右【湯立】共に足込で撮影。
竈祓は、竈を祓う儀式。湯立は、竈に湯を沸かし、祓いをして諸神に湯を献じ、祈祷をする儀式。湯を湯笹に浸して、舞庭に花禰宜が撒くことから、清めの意味もあるようです。

【湯立】東薗目
東薗目では、湯立は舞が終わった後の神事として行なわれます。湯立は、かつてはそれに続いて【花育て】があり、白山浄土入りの逆修供養の儀礼として行なわれていた、との記述もみる事があります。

【順の舞】足込
足込では、撥の舞に続いて舞われる演目です。

上左【四ツ舞】、上右【湯ばやし】共に東薗目。
湯ばやしは、“湯たぶさ”という新藁の束を持って舞始めます。それに湯を浸して、セイト衆(見物人)に湯を掛けますが、それまでの30分程の舞に段々と興奮が高まってきます。“湯たぶさ”は神の依り代で、竈の中へ入れて湯を浸し、神々に清めの湯を浴びせるところからきてるようです。その儀式が舞として造形されたようです。


【湯ばやし】月


【湯ばやし】月


【湯ばやし】東薗目

上左【花そだて】、上右【五穀祭り】共に、月。
花育ては、浄土神楽的な「白山浄土入り」の葬送的儀礼を継承するとされています。五穀祭りは、“神返し”ともいい、供物や祓い銭を舞庭に向って、ひっくり返します。

上左【龍王】、上右【外道狩り】共に、月。
龍王は、“鎮め”ともいう。花太夫が、宮人の前で面を憑け(着け)て印契を結び反閇(へんばい;へんべ)を踏み、神々の心を鎮めてお還り頂き、祭場を元に戻す儀式。
外道狩りは、祭場の注連縄を切って結界を開放し、それから辻固め幣の場で、同様に花太夫が印を結び、宮人が祓銭を納めて全ての花祭が終わる。

≪参考文献≫
【花祭】早川孝太郎;岩崎美術社
【東栄町誌】東栄町誌編集委員会
【霜月神楽の祝祭学】井上隆弘;岩田書院


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